◇「豊臣兄弟!」あさひ役・倉沢杏菜インタビュー
俳優の仲野太賀(33)が主演を務めるNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」(日曜後8・00)は18日、第40回「あさひの輿入れ」が放送され、女優の倉沢杏菜(21)が好演している主人公の妹・あさひが最愛の夫・副田吉成(前原瑞樹)との離縁を命じられ、徳川家康(松下洸平)に嫁ぐ姿が描かれた。インターネット上には涙の視聴者が続出し、あさひ&甚兵衛の夫婦愛が反響を呼んだ。倉沢に撮影の舞台裏を聞いた。
<※以下、ネタバレ有>
NHK連続テレビ小説「おちょやん」などの八津弘幸氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ通算65作目。“天下一の補佐役”豊臣秀長を主人公に、豊臣兄弟の絆と奇跡の下克上を描く。兄・豊臣秀吉役は俳優の池松壮亮が演じる。
今作においては「甚助」「副田甚兵衛」「副田吉成」と名前を変えてきたあさひの夫。最新研究によると、吉成は「本能寺の変」(天正10年・1582年)の直後、一揆により但馬・多伊城を奪われ、秀吉の不興を買ったことが離縁の原因とされる。つまり朝日姫が家康に嫁ぐ際には独身だったということになるが、今回はオーソドックスな描き方を採用。あさひ&吉成の夫婦愛を強調した。
あさひ&吉成にとっては今作最大とも言えるヤマ場。倉沢も「第40回の撮影に入る前に、前原さんとも“この時のために今までやってきたからね”と言葉を交わし合うぐらい、2人にとっては一つのゴールだと思って臨みました」と全力を注いだ。
第40回の撮影前日には、朝日姫を祀る「朝日神社」(名古屋市中区)を訪問。「ずっとタイミングを逃していて、ようやく行くことができたんですが、朝日姫が祀られている場所だけ少し悲しい空気が漂っている感じがしました。それはたぶん“悲劇の女性”だと言われてきたからかもしれないと。私は“かわいそう”ではなく、その前にまず“ありがとう”と言えたらいいなと思いました。あさひが徳川に渡ったことによって救われた命があって、もしかしたら今の自分たちにつながっているかもしれない。なので、徳川に嫁ぐことが逃れようのない道だとしても、そのことに対して“かわいそう”ではなく“ありがとう”と視聴者の皆さんに感じていただけるあさひ像になればいいなと。私の勝手な思いですが、そう願って演じさせていただきました」と明かした。
最初に脚本を読んだのは、今作の撮影の合間。「感情移入しすぎて、涙が止まりませんでした。次のシーンに影響が出てしまいそうだったので、いったん読むのをやめたぐらいです。こんなにも心が持っていかれる脚本は初めてで、それはきっと1年半という長い時間をあさひとして過ごしてきて、その思い出や大切なものであふれ返っている状態に自分が到達できたからなんだと思います。あさひとして今まで積み上げてきたものがすべて凝縮されている本当に温かいお話を、八津さんが描き出してくださいました」と感謝した。
離縁を命じられた吉成は「(夜逃げの密告をしたのは)おまえか。この裏切り者が!真は、家康に嫁ぎたかったのではないか。欲に目がくらんだか。おまえなどこっちからお断りじゃ」。悪態をついたのは敢えてで、それは最愛の妻のためだった。
「あやつは、ずっと苦しんでおったのじゃ。己は、何の役にも立てないと。子もできぬし、戦にも行けぬ。字は下手だし、銭勘定にも暗い。だからせめていつも笑って、皆を少しでも明るくしたいと」。秀吉と秀長に吐露した。
「あやつはずっと苦しんでおったのじゃ。己は何の役にも立てない。子もできぬし、戦にも行けぬ。字も下手だし、勘定にも暗い。だからせめていつも笑って、皆を少しでも明るくしたいと」
倉沢は「そうそうたる皆さんとご一緒させていただいた『豊臣兄弟!』ですが、自分の実力が足りていない、もっとやれることがあったはず…と反省したり、悔しく思う時間も少なくありませんでした。この甚兵衛の第40回の台詞が、私自身にも通ずる部分があり、素敵なものにできるように頑張りたいと、あらためて強く思いました。万丸(姉・ともの長男、のちの豊臣秀次)を養子に出す家族会議(第16回・4月26日)の時に“自分には子がいないから、みんなの役に立てない”と気づきました。その気づきも今回の話へとつながり、自分の中のあさひの記憶と脚本が地続きであるという感覚になっていて、あさひが自分の中に根づいたのだなと。そういう感覚になったのも初めてだったので、とても不思議な気持ちになりました」と述懐。長丁場の収録を経て、役と同化していた。
あさひが吉成に別れを告げる際の台詞「本当のことを言うと、徳川殿に嫁ぐのは、少し怖いけど。でも、私も、私にしかできないことを、存分にやってみようと思う」は当初、「でも、私も」ではなく「でも、私は」。倉沢が「も」への変更を提案し、制作側からGOサインをもらった。
「自分にしかできないことを存分にやっているのは、兄様たち・母上・姉様をはじめ、みんなそうだと思います。天下一統を目指して大変な思いも経験したみんなの姿を見てきたからこそ、あさひもその一員になりたくて徳川に嫁ぐ決断ができたんだと。そう考えて“も”への変更を提案させていただきました」
視聴者がもらい泣きした夫婦愛。共に体現した吉成役の前原とは、運命的な“初共演”だった。
倉沢は「豊臣兄弟!」への出演が決まる数カ月前、あるワークショップへ出向き、演技のレッスン。前原も偶然、参加していた。
「豊臣兄弟!」の選考とは関係のないもので「偶然、夫が妻に別れを告げるというストーリーで、しかも結構な人数がいたのに前原さんとペアを組むことになったんです。他のペアはシリアスなお芝居でしたが、演出家の方から“倉沢さんがもっとツッコミを入れてみたら?”とコメディー風のオーダーがあって、あさひ・甚兵衛のようなやり取りを一足先にやらせていただいていました。前原さんとはその時が“初めまして”で、その後に『豊臣兄弟!』の夫婦役が決まったんです。あさひ・甚兵衛として再会した時は、お互い“ビックリしたね”と。もう運命としか言いようがありませんよね。そのワークショップで一度リハーサルをしたようなものでしたから(笑)、初共演といっても心強い限りでした」。芝居の神様による“粋な配剤”だった。
2026年10月18日 20時53分