球団創設58年目にして、初めてワールドシリーズを制したブルワーズが本拠とするミルウォーキー市の人口は約57万人。都市圏まで拡大しても約157万人で、MLB30球団の中では最小クラス。必然的に商圏も小さく「スモールマーケット」と呼ばれている。
それゆえ、球団とファンの紐帯(ちゅうたい)は固く、優勝パレードと祝賀会には、市の人口の1・5倍近い約75万人が繰り出した。北米きっての「ビールタウン」らしく、沿道や会場では、選手もファンも“歓喜の泡”にまみれた。
ミルウォーキーが「スモールマーケット」なら、こちらは「ビッグエリア」である。ラグビー「リーグワン」の強豪・東芝ブレイブルーパス東京が、新シーズンを前に名称を「東京」から「武蔵」に変更した。正式名称は「東芝ブレイブルーパス武蔵」だ。
リーグワンでは、チーム名にホストエリアの名称を入れることが原則とされている。中にはトヨタヴェルブリッツのように地域名が含まれていないチームもあるが、活動拠点の豊田市と企業名が重複している点が考慮され、正式名称として認められた。
さて今回のブレイブルーパスの「東京」から「武蔵」への名称変更、個人的には賛意を示したい。親会社の本社機能の川崎市移転に伴うものだが、これにより、チーム名の東京一極集中が少しでも是正されるのなら、それは明断である。
発足当初、D1は「東京」で溢(あふ)れかえっていた。12チーム中、首都名を冠したチームが、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、東京サントリーサンゴリアス、リコーブラックラムズ東京、東芝ブレイブルーパス東京と5つもあった。
NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安。実に29文字。これ噛(か)まずに読めます?まるで落語の「寿限無」である。
おそらく、あちこちから戸惑いの声が届いたのだろう。1年も経(た)たないうちにシャイニングアークスは「浦安D―Rocks」と改名した。チーム名から企業名と「東京ベイ」の2つを消したのは、賢明な判断だった。
話をブレイブルーパスに戻そう。改名するまで、こちらの新聞表記は「BL東京」、ブラックラムズは「BR東京」。当初はラグビー関係者の中にさえ、この2つを混同する者がいた。今回の改名を機に「BL東京」は「B武蔵」と表記されるようになった。紛らわしさが少しは解消されたか。
それでも課題は残る。何より新チーム名の由来である「武蔵」に対する認知度と愛着度だ。地域概念が漠然としていて、今後、シビックプライドが醸成されるのか見通せない。
武蔵国が歴史に登場するのは7世紀後半で、19世紀中ごろまで続いた。1871年の廃藩置県に伴う行政区画の再編により「東京都」「埼玉県」「神奈川県」に3分割された。今「武蔵」という行政区域は存在しない。
そうした中、どうやって「武蔵」の認知度を上げ、愛郷心を涵養(かんよう)し、ラグビータウンへの下地づくりを進めるのか。フロントの腕の見せどころである。 (スポーツライター)
2026年11月04日 06時07分